マーベルの繁栄を支える天才 ケヴィン・ファイギ
左からクリヘム夫妻
冒頭から早々と『マイティ・ソー バトルロイヤル』のネタばれあります。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』で、不思議だった事。
①ロキは惑星サカールに暫く住んでいた設定でしたよね。そしてグランドマスターと並んで格闘大会を見学できるほどの仲でした。
だから、格闘大会でチャンピオンのハルクを何度も見てるはずなのに、ソーの対戦相手としてハルクが現れた時、何故初めて見たような顔をして、おびえながら、「逃げないと」みたいな事を言ったのでしょう?
②ソーは雷神で雷を操れるほどの存在なのに、何故、人間レベルの電気ショックで動けなくなっちゃうのでしょうか?
③ソーにアスガルドの王位を捨てさせた運命の女性、ジェーンとのその後については「ふられた」又は「別れた」だけで、終わりですか?他の場面にジェーンとのいきさつについて言及してたとこありました?
私が見逃したかもしれないのですが……
日米同時公開のマーベル映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』が映画批評サイト、ロッテントマトのプロ批評家枠で、93点というマーベル作品では歴代2位となる高得点をたたき出し、週末興行収入、$121,005、000、 ボックスオフィス1位スタートを飾りました。
軽くてコメディ調になったのが、好評ですが、今回も少数派の私は前2作の重厚な雰囲気がソーの個性だと思ってるので、『マイティ・ソー』の威厳があって、でも明るいソーや『マイティ・ソー ダークワールド』の、ロングヘアのたてがみ姿からセクシーフェロモンがだだもれしてたソーのほうが良かったなあ…と思っちゃいました。
(ただしロキとハルクはこっちの路線に異議なし)
こっちのほうが似合ってたと思うけどなぁ……
『マイティ・ソー バトルロイヤル』でのタイカ・ワイティティ監督の起用はアベンジャーズ3作目の『インフィニティ・ウォー』や4作目で、今までのトーンのソー達だとガーディアンズと絡んだ時に画面が水と油みたいになっちゃうから、キャラを変えてガーディアンズに寄せた、という説と
ソーの前2作が、他のマーベル作品に比べて人気、評価共に低いので、テコ入れを目的としてコメディが得意な人に作らせたんではないか、という憶測の二つがあるけれど、
どちらにせよ、マーベルの、稼げる映画を作るセンス、その正確さに脱帽です。
でも、これは同じマーベルスタジオの『GOTG』(ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー)の成功がいかに影響力が大きかったか、の表れだと思うので、われらがジェームズ・ガン監督のお手柄でもあるじゃないですか。
今のマーベルスタジオは何をやっても成功してしまいますね。
この大ヒットで『アイアンマン』からのマーベル映画の米国でのトータル収入が5,000億円強、全世界では1兆円強だそうです。
そのマーベル王国の繁栄を支えているのが
ケヴィン・ファイギ(44歳)
映画プロデューサーにしてマーベルスタジオの社長
南カリフォルニア大学 映画芸術学部卒
2008年の『アイアンマン』でマーベル作品を初プロデュース。
ファイギ氏は
「 ユニークなビジョン、クリエイティブな声をもっている監督を探すようにしている。何か僕たちに感銘を与えるような、賢いものを作った人を。僕たちにとっては、それがテレビドラマや小規模な映画だったとしても関係ない」と断言する。
引用:シネマトゥデイ
これぞ、今のマーベルの黄金律ですよね。
大勢いる部下のプロデューサー達を動員していろんな映画祭の作品やインディペンデンス映画をかたっぱしから観てるんだろうな……そして、自らの感性で判断した才能にチャンスを与える為、まず取り掛かる作品の企画会議に当人を呼ぶみたいです。そして次の会議、その次の会議と続け、呼ばれた人達は自分のアイデアや構想を資料にして提出し、それがおメガネにかなうと企画中の作品の監督に決まるみたいです。ジョン・ワッツ監督(『スパイダーマン ホームカミング』2017年日本公開)やジェームズ・ガン監督のインタビューより仕入れた話です。多分、シナリオライターも同じ方法で選ばれるんではないでしょうか。
このようなマーベルの超実力主義なシステムも見事ですが、
ケヴィン・ファイギ社長の
一歩先を行くセンスがまた凄いんですよね。
以下、その例です。
『シビルウォー』
(2016年日本公開)
『ウインターソルジャー』
(2014年日本公開)
の監督のジョー&アンソニー・ルッソ兄弟を、ケヴィン氏が見つけて採用するきっかけになったのが、二人が監督してたTVドラマ『コミコン』(2009年~)のファーストシーズンだそうですが、これ、本当にコメディofコメディで、しかも、ナンセンスで、皮肉たっぷりで、小ネタ満載で、ちょっと『GOTG』方面なんですね。それは脚本家のダン・ハーモンの個性で、なんだとは思います。
が、ウイットに富んだセリフはあっても、ふざけたチャラい所がひとつもない『ウインターソルジャー』『シビルウォー』、2つの作品の監督を、このコメディを見て選んだってどういうセンスしてるんだろう……という……
ただ、ルッソ兄弟が脚本も書いた過去作『ウェルカム トゥ コリンウッド』(2003年日本公開)も、間抜けな人たちが織りなすコメディ寄りの作品なので、ケヴィン氏はどうもコメディが好きで、その嗅覚が、他作品含めこの2作品における斬新な人事につながってるようにも思います。
★『GOTG』以来、
マーベル以外の映画でも大流行りの、戦闘シーンにオールディーズの曲を流す手法ですが、『GOTG』の企画会議の時、ジェームズ・ガン監督が、出した企画書の表紙に載せられていた古いウォークマンの写真を見ただけで、すでに、
「信じがたいほどパーフェクトだ」と思った。
とインタビューにあります。
BuzzFeed 「マーベルを落としたmaniac」
★『GOTG』シリーズの主役、
一応ヒーローのスター・ロード役に、ジェームズ・ガン監督が、まだデブだったクリス・プラットを選んだ時、ケヴィン氏はクリスがデブのままでスターロードを演じる事を許したそうです。マーベル初のデブのヒーロー映画という遊び心を面白がったのでしょうか?
この企画は、クリス本人が、常識的判断からダイエットしたため、実現しませんでした。実現しなくて良かったと思います。クリスがデブのままヒーローをやってたら、一部の人達には大ウケしたかもしれませんが、誰にも好かれる大ヒット作にはならなかったと思います。
そういう点で、ケヴィン氏は運もいいのですね。
ケヴィン氏か部下のプロデューサー の采配か
分からないけど凄い事
☆『シビルウォー』の
セカンドユニット(メインのカメラが撮ってる場面を同時に別の角度から撮る班のこと)の監督はアクション好き映画ファンが一押しのデビット・リーチ監督とチャド・スタエルスキ監督(『ジョン・ウイック』シリーズ)だそうです。
言われてみるとあの何人ものヒーロー達が敵味方に分かれて、重複して戦ってるアクションシーン、とても観やすかったです。
☆『スパイダーマン ホームカミング』(2017年日本公開)の
ジョン・ワッツ監督(36歳)が見つけ出された作品
『COP CAR / コップカー』(2016年日本公開)は
登場人物のいたずらっ子の男の子達も、通りすがりのおばさんも、悪人達もみな、普通の男の子、普通のおばさん、普通の悪人なのですが、次々起こる事が予想外&リアル過ぎて怖ーいのです。
主人公のピーターはじめ、登場人物がみんな普通で(ロケットやロキが好きな私にとっては)あの万人受けする系のスパイダーマン作品を任せる監督を選ぶのに、この静かだけど怖ーい作品を作った人を候補に入れるんですから……斬新すぎてついていけない。
ケヴイン・ベーコン(もう59歳!)はあげマンですね!
ジェームズ・ガン監督が、『GOTG』の前に撮った『スーパー!』にも、『COPCAR/コップカー』にもでてますもんね。彼を使って作品を撮ると、出世して、大作映画を作れるようになる、なんてジンクスもできそうです。
ケヴィン・ファイギ氏もマーベルスタジオのプロデューサー達も、何て幸せな人生なんだろう、と思います。好きな仕事で才能をいかんなく発揮できて。
ただ、人間は、必ず負ける時が来る、と言いますから、この繁栄にかげりが見える時は必ず来ると思います。
コミック原作のヒーロー映画やTVドラマは米国文化に深く根づいてるようなので、少なくとも米国ではこの先もずっとヒーロー映画の需要はなくならないのかもしれません。でも、今のような連戦連勝状態が5年後、10年後も続くとは限らないでしょう。その時に、プランBエンターテインメントのような興行成績は重要視しない、自分達が良いと思った物を作る、という信念があるかどうか、映画製作者としての質が問われるのではないでしょうか?
マーベル映画の近々のラインナップとしては
2018年3月公開の『ブラックパンサー』(ライアン・クーグラー監督)、
そして、何といっても
2018年4月27日に日本で米国より早く公開される予定の
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は『ウインターソルジャー』、『シビルウォー』でキレのある脚本を書き、『マイティ・ソー ダークワールド』でもウイットに富んだセリフが上手だった脚本家、クリストファー・マルクス、スティーブン・マクフィーリーとルッソ兄弟との名コンビの期待作なので、一部のマーベル作品しか観てない私も非常に楽しみです。
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読んでくださった方、ありがとうございました。
マーベル作品に詳しくないので、もし、間違った記述をしてたら、教えていただけると助かります。