映画についてのよけいな事 

練りきり作りましょう!

今、そこにある危機

壮絶な環境の中で歯を食いしばって生きている若者の、そんな中での恋、友情や裏切りというとても人間らしい要素を描いている2作品を観ました。

 

『ムーンライト』

2017年日本公開

第89回アカデミー賞作品賞

助演男優賞マハーシャラ・アリ

受賞

監督:バリー・ジェンキンス(38歳)

脚本:バリー・ジェンキンス

   タレル・アルビン・マクレイニー

 


アカデミー賞作品賞!『ムーンライト』日本版オリジナル予告

 

 米国の、貧しさとか教育の不平等とか犯罪に囲まれた環境の中で麻薬に溺れて抜け出せない人々の社会で成長し、生きていくしかない黒人の少年期から大人になるまでを描いた作品です。

 

 

 

『オマールの壁』

2016年日本公開

監督:ハニ・アブ・アサド(56歳)

脚本:ハニ・アブ・アサド

第86回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート

 

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それでも『ムーンライト』は多分ハッピーエンドぽい、救いのあるラストでしたが、『オマールの壁』はその衝撃的なラストを先に知ってしまうと、作品を味わう楽しみが激減してしまうと思うので、ストーリー説明はやめときます。

ぜひ、ご覧になってください。

政治的、宗教的メッセージを前面に出した暗くて抽象的な作品だと誤解してしまいそうですが、ハニ・アブ・アサド監督は、脚本も共同執筆して、自爆テロに向かう二人のパレスチナ青年を描いたパラダイス・ナウ(2007年日本公開)で、2006年のゴールデングローブ賞外国語映画賞等、数々の賞を取り、『歌声にのった少年』(脚本:ハニ・アブ・アサド/ザメーゾ・アビー 2016年日本公開)でも、ガザ地区から偽造パスポートで脱出し(ガザ地区にいるパレスチナ人はイスラエル軍に包囲、制圧され、自由に外に出れない)アラブでスーパースターになった男性歌手の実話を感動的な作品に仕上げている楽しませる事が上手な人のようで、この『オマールの壁』もハリウッド映画のように分かりやすくて観やすい作品です。

主演俳優のアダム・バクリ(29歳)が、来日時、インタビューで語った所によると、

 

ガザ地区ヨルダン川西岸に暮らすパレスチナ人は、イスラエルの検問所を通って大学に行くのに5時間もかかったり、水や電気を度々かってに止められたり、とにかく不便で人権無視な環境で生きているそうです。医療も不十分で、他の国なら助かる病気も助からない事があるみたいです。

 

トランプ大統領の「イスラエルの首都はエルサレム」発言で、各国でデモが起きているらしいが、勿論この土地の住民はデモさえやらせてもらえないんだろうな……

 この作品中でも、主人公は、ガザの居住区を分断して建っているイスラエルが作った壁をよじのぼらないと恋人の家に行けないのですが、壁をよじのぼると、監視塔からイスラエル軍の銃弾が飛んでくる、という死と隣り合わせな生活です。

そんな不便で辛い生活を変える為にイスラエル軍への攻撃や抵抗をして、常に危険にさらされて生きている男達を描いた本作。

ラ・ラ・ランド(2017年日本公開)が、壮大な能天気の作り物に思えて仕方ありません。

などと、えらそーな事言ってる私も、「可哀想だなぁ」と他人事に思って高みの見物をしている鼻持ちならない人種なのだけど。

もっと言えば、同じイスラエル国内に生まれたパレスチナ人でも、人々が苦労しているガザやヨルダン川西岸で育ってないし、現在はニューヨークで俳優活動をしてるアダム・バクリも、ヨーロッパで自由に芸術活動しているハニ・アブ・アサド監督も、高みの見物側の人間なのでは?と思う。

 

以前観てボロボロ泣いてしまったドキュメンタリー。

『世界の果ての通学路』

2014年日本公開

監督:パスカル・プリッソン

脚本:パスカル・プリッソン

   Marie Claire  Javoy

 

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ケニアのサバンナ。象に襲われないように警戒しながら、片道15㎞を2時間かけて通学する兄妹。

ロッコアトラス山脈の険しい山道を毎週月曜日、4時間かけて寄宿舎付きの学校へ行く三人の少女達。家族の中で初めて学校へ行ける世代の自分が将来の為に勉強するんだ、と言う真剣なまなざし。

アルゼンチンのアンデス山脈。人里離れた牧場で家族と暮らす少年は、毎朝妹を後ろに乗せた馬に乗って家を出発し、18㎞先の学校に通う。

インドの貧しい家の三人兄弟は、でも、働かせずに学校へ通わせてくれる母親に見送られて、足の障害で歩けない長兄をボロボロの車椅子に乗せ、下の弟2人がどろどろのぬかるみやがたがたで車輪を押すのが一苦労な道を車椅子を押して片道4㎞を歩いて学校に通う。 

 

この作品は、いろんな一般人のレビューで、

「ドキュメンタリーなはずなのに、都合のいい展開があったり、明らかに演出してる、と思われる場面がある」

とか

「やらせじゃん!と感じて興ざめした」

等、ケチがついたりした作品でもあるんだけれど、いつも、ドキュメンタリーじゃない作品に対しては「ご都合主義だ!」とか「リアリティがなさ過ぎて白ける」等、文句たらたらの私が、ドキュメンタリーという最もご都合主義なくさい要素は禁止なはずの映像に対して何故か、いちゃもんはいっさい浮かばなかった。子どもが好きだから感覚がマヒしてしまってたのか、普段、生意気な事を言ってても、結局は間抜けなだけなのか……

どこの国の子も最初から過酷な状況がありありと映し出されていて、それを見ただけでもう、引き込まれて、涙腺崩壊待機状態になってしまうからなんだろうか、そのまま、ラストまで「なんて立派なの、この子達」と思って過ぎてしまった。すくなくとも、自分達がいかに恵まれてるかを思い出し、その気持ちを前向きな方向に向けてくれるドキュメンタリーだったと思います。

私達日本人は、いくらでも勉強できる環境なのに勉強してない人ばかりです。

きっと、伝統的、又は経済的な理由で学ぶのが困難な所の学校には先進国のような形のいじめはないように思います。だって、みんな、こんなに苦労して毎日学校へ行ってるんです、勉強する事で精一杯で余計なこと企んでる余裕はないんではないでしょうか。

 

今の日本は戦争も占領もないし、麻薬社会で育ち、少年院行き→薬の売人になるような未来しかない環境の子ども達も稀だと思う。それどころか、かってない豊かさを享受している国。

都会では電車やバスが、田舎ではほぼ1人に1台車があって、どこへ行くにも簡単に行けて、何でもネットで注文すれば家から1歩も出ずに生活できるし、子どものお守りはスマホにまかせとけばいい、3Kの介護職は出稼ぎに来るアジア人にやってもらう……

何という楽な生活、でも、私達はその快適さと引き換えに何か大きなものを失っていってるんではないだろうか?

その快適すぎる生活への警鐘を鳴らした作品をwowowで観ました。

 

サロゲート

2010年日本公開

監督:ジョナサン・モストウ(56歳)

脚本:マイケル・フェリス

   ジョン・ブランガトー 

 

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[あらすじ]

未来社会では人間は自宅にこもりきって、コンピューターで自分の脳とつながれたロボット(サロゲートとは代理人という意味)が外へ行き、自分の代わりに仕事を含め、全ての現実の生活をこなしてくれる。ロボットなので、容姿もスタイルも自分の望み通りの、なおかつ若い体。そんな自分が外で人生を送るのを脳を通じて体感できるし、外で誰かに暴力をふるわれたり、交通事故で死んでしまっても、ロボットが死ぬだけで、又次の代価品を手に入れればいいので、病気以外の事で人間が死ぬ事がなくなったユートピアのような社会。

という事だったが、世の中の事が全て人間の計画通りに進むはずもなく……

 

★今でさえ、先進国で標準的生活をしてる人々はもう、十分、快適で、安全で、便利な生活をしてるのに、もっともっと進んだ世界を求めたが、それは”バベルの塔”のようなものだった、という感じの作品でした。

 

ノパソでブログを書き、タブレットで調べものをし、観る映画の7割はネット経由でアマゾンビデオとかNetflixから、という私がどの口からそんな偉そうな事言えるのって分かってるけど、私を含め、今、先進国の人々が謳歌している享楽の果てには何か大きな罰が待ってるのかもしれない、と思う。

電気等の資源の膨大な使用量に伴う環境破壊は今や歯止めがきかない、北朝鮮と米国、そしてその他の核保有国の間で報復合戦になれば、ボタンひとつで全世界が荒涼の大地になる。

トランプが米国大統領に就任して約1年、この年末は、日本人も、いつ、高みの見物人ではなく当事者になるか、わからない時代になったなと実感しています。