アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネートの3作品
今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされている作品を3本観ました。
『ストロング・アイランド』
『イカロス』
『アレッポ 最後の男』
ネタをばらして感想を書かないと何か説得力に欠けるような気がして、
今回もネタばれ付きの感想です。すみません。
『ストロング・アイランド』
2017年 Netflix配信
監督・ヤンス・フォード
米国、ニューヨークのロングアイランドの黒人専用地区に住む家族の、殺人事件に巻き込まれ、兄を白人に撃たれて殺された女性監督がほぼ全編を身内へのインタビュー内容で作ったドキュメンタリーです。
事件そのものは1992年に起きた。25年前の事件を何故今になって作品に?と不思議に思ったのだけど、逆にその当時の事を今は亡くなっている母親が鮮明に語っている映像を彼女が今までずっと保管してきたという事に計り知れない重さを感じました。
彼女の兄ウイリアムがトラブルで揉めてた白人に銃で撃たれ、公平かつ厳密な捜査なしに殺人事件を正当防衛で不起訴にされたのですが、妹が熟読した検視報告書の内容や、現場にいて、ウイリアムが撃たれる瞬間以外の白人とウイリアムのやり取りを見ていた友人の証言からはとても正当防衛とは思えません。不起訴が決定された大陪審の審査に出席した母親によると、起訴か不起訴かを決定する陪審員は23人全員白人で、母親が証言台で話す事を、雑誌を読んだり、パズルをしたりしながら聞いていた、というよりも聞く気もない感じだった、殺されたのが黒人だったゆえに。
この事件については被害者側の証言のみで作られてるので内容が100%真実とは言い切れないのかもしれませんが、この大陪審についてだけでも明らかに差別だと思いました。恐ろしいのはこの行為を差別してると気がつかない、又は差別とは分かっていても、それを異常な事だと思わない白人の審判員達、警察関係者達です。
自分達と違う民族を見て、自分達より劣っているという感覚は持たない人が大多数の日本人にとって、この「無意識に差別したくなる」気持ちは理解できない感情だと思います。
近年、日本でヘイトスピーチが問題になっていますが、例えば韓国人にたいするヘイトスピーチは個人的には、あれは今韓国との間で政治的な問題、領土の問題でけんかしてる状態なので、そこからくる憎しみで起きるのでは、と思います。現代の法治国家では許されない行為ではありますが、動機は理解できる気がします。
日本人が、どっちの民族が優れてるか、どっちが上か下か、という意識を持たないのは単一民族で構成され、何故か無宗教な人ばかり、土着の宗教は、他宗教に寛容な仏教と神道で宗教間の対立もなく、それによる憎しみ合いもないからではないでしょうか?
私は世界中の争いの半分は宗教が原因だと思っています。
現在でも人々の生活を差別し、下層の階層に生まれた人々を苦しめているインドのカースト制度もヒンドゥー教の教えからきています。
『イカロス』
2017年 Netflix配信
監督:ブライアン・フォーゲル
スポーツ競技におけるステロイド使用に関するドキュメンタリー。監督はブライアン・フォーゲル。自転車選手でもあるフォーゲルは、オートルートのトレーニング中にパフォーマンスをあげる薬物を使用することを決め、アンチ・ドーピング検査をパスできるかを試みようと考えた。フォーゲルは、当初 UCLA のオリンピック分析研究所の創始者であるドン・カトリンにアドバイスを求めた。カトリンは、周囲からの評判を懸念し、実験への関与はよくないと考えた。 代わりにロシア反ドーピング機関所長のグリゴリー・ロドチェンコフを紹介し、彼がドーピングシステムの管理に協力した。ロドチェンコフの手を借り、フォーゲルはホルモン注入と検査時に利用する尿サンプルを使ったシステムを開始した。
フォーゲルとロドチェンコフの関係は短期間で近づいた。実験中にはロドチェンコフが、ロシア選手がパフォーマンスを向上させる薬物を検出することなく使用するのを助けるために独自のシステムをロシアに持っていたことが明らかになった。実験の最中、2014年ソチオリンピックにおいて、ロシアによる国家主導のでドーピングプログラムが実施されたことがドイツの公共放送によって報じられた。その報道の中で、重要人物とされたロドチェンコフは、ロシアから命を脅かされる存在となり、フォーゲルの助けを借りてアメリカへ亡命。そして、カメラの前で、尿サンプルの交換などロシアが行ったドーピングについて証言を行っていく。
出典:ウイキペディア
これは監督のブライアン・フォーゲルやプロデューサーにとって、製作者冥利につきる歴史的な作品になってしまったのではないでしょうか?
個人的にはこれがオスカーを獲って、監督達が壇上に立ち、どんなコメントをするか、ぜひ見てみたいです。
あまりにスケールの大きな”瓢箪から駒”が起きてしまい、ロシアという大国の大きな犯罪が国際社会に公表され、その中心人物のロドチェンコフ氏は今も命の危険にさらされ米国の証人保護プログラムの元に暮らしています。
監督はじめ製作関係者も自分が暗殺されないか、心配にならないのだろうか?と思ってしまいます。
ロドチェンコフ氏によると、プーチン大統領も全部知っててドーピングの指示を出していたそうです。プーチン大統領はそれを完全に否定していますが、この作品の内容が100%真実だとしたら、堂々と、嫌われる事をやって嫌われるトランプ大統領より法の目をくぐってばれないように嫌われる事をするプーチン大統領の方が、ずっと怖いなぁ、と思いました。
でも、結局その卑怯な行為はばれて、ロシアという国としてオリンピックに参加する事はできなくなったので、国としてメダルを量産し、国強を見せしめる為にやった事が最も皮肉な結果になってしまったわけですね。
余談ですが、この作品を見ると、アマチュアスポーツではドーピングは違反にはならない=ドーピング検査をしないのでやっていてもばれないという事に気づきます。
趣味のバドミントンでいつも勝てない男性プレイヤー達に勝つ為にドーピングしようかなぁ…とちょっと悩みました。
『アレッポ 最後の男』
2017年5月NHK BS1放映
監督:フィラス・ファイヤド
共同監督
スティーン・ヨハネッセン
ハサン・カッタン
これは去年アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞した
『ホワイト・ヘルメットーシリアの民間防衛隊ー』
と同じ題材(アレッポに住む素人の救急救命隊員達)を反対の切り口で撮っていて、その為にこっちの映像で映っているホワイト・ヘルメットの男達の方がずっとリアルで『ホワイト・ヘルメット』の方が、嘘っぽく感じます。
『ホワイト・ヘルメット』ではインタビューに答える男達全員が、自分達は平和主義者で、敵も味方も関係なくシリアの内戦の現場で、怪我をしてる人や命の危険のある人を助けている、とか、命を落としたり、怪我をする子ども達を見ると胸が痛む、みたいな事を口をそろえて言います。清廉潔白な雰囲気を押し出しながら……わざわざそういう事を言わせる事じたい、やらせの匂いがぷんぷんします。
それに比べ、『アレッポ 最後の男』では、ホワイト・ヘルメットの隊員達は反アサドの集会に参加し、「アサド政権と最後まで戦うぞ!」とこぶしを振り上げるシーンから、一人の隊員が、他の隊員と一緒にこのままアレッポで、アサド政権に抵抗し続けるよりも、妻子の安全のため仲間を捨て家族でトルコに亡命しようか、と悩む所まで、ホワイト・ヘルメットの隊員達をそのまま美化しないで映しとってます。本当に人間らしくてリアリティがあります。この作品を観ると、なんで『ホワイト・ヘルメット-シリアの民間防衛隊』みたいのがアカデミー賞とれたんだろう?と思ってしまいます。
ラストに見せられる衝撃の結末も究極のリアリティです。ドキュメンタリーの真骨頂だと思います。
NHK BS1って他にも中味の濃い優れたドキュメンタリーを放映してくれます。
知識欲を満たし、感性を育ててくれる本当にありがたいチャンネルです。