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『病院へ行こう』一色伸幸ワールド

病院へ行こう [DVD]

 

1990年4月7日 公開

監督:滝田洋二郎(当時35歳)

脚本:一色伸幸 (当時30歳)

採点:3・5点(5点満点中)

  あらすじ

広告代理店コピーライター・新谷公平は、妻の春子が夜中に見知らぬ男性を自宅に連れ込んでいる現場に鉢合わせし、男性と揉み合いの末、マンションの階段から転落する。そんな新谷が搬送された大学病院の新人研修医・吉川みどりは、救急患者が苦手で点滴の針すらもさせない有り様。結果、新谷は大腿骨骨折・全治1ヶ月間と診断され、同病院の大部屋で入院生活を送ることになる。だが、新谷の隣のベッドの患者は一緒に転落した男性・如月十津夫だった。新谷と如月の担当医になったみどりに対し、新谷は不安を如月は恋心を抱く。入れ替わるように面会に来た春子は新谷に離婚届を渡すと弁解もせず実家に戻ってしまう。

新谷は間男、妻の不倫・離婚、自分が抜けた仕事のことなどから胃潰瘍を併発するが、医師が胃癌であることを隠すために胃潰瘍と偽っているのではと思い悩む。一方、新谷よりも軽傷だった如月の肺に影があり、肺癌なのか結核なのか判明せず、みどりも悩んでいた。如月には内緒で様々な検査をするが、結局、どちらなのか判明しない。外科医は手術して直接患部を見れば良いと言うが、不要な手術を嫌うみどりは納得しない。日数は掛かるが、如月の痰を培養検査へ提出する。みどりから胃潰瘍であると断言され新谷の悩みは軽減される。しかし、如月への怒りは治まらない。復讐のためだけに如月が憧れるみどりを口説き落とし、新谷の意趣返しは成功する。

検査の前日、如月は新谷を誘い病院を抜け出し、2人は車椅子で夜の街へと繰り出す。そこで、新谷が仕事で多忙のために寂しい春子が、自身の誕生日に街で偶然出会った如月を家に入れただけで、不倫など何もなかったという真実を知る。酩酊した如月は解雇された花火工場に乗り込むが、怪我で利き手の右手が不自由になった職人まで雇う余裕がないと親方夫婦は弁解する。朝帰りした二人が病院に戻ると、如月の帰りをいら立って待つみどり。如月の飲食していないとの自己申告を信じ検査を始めるが、検査途中で昨夜暴飲暴食したものを吐いてしまい検査は中止。検査した医師はみどりを叱責し、みどりは嘘をついた如月に怒りをぶつける。

新谷は如月の検査内容から肺癌だと気付き、みどりを問い詰めるが不自然に否定される。ある夜、 医局に忍び込んだ新谷と如月は、みどりの引き出しに如月のラブレターを入れるが、如月が目を離した隙に新谷は引き出しからラブレターを取り戻す。新谷はみどりが書いた風を装って返信を作成し、それを寝ている如月の枕元に置く。如月は返信の内容が好意的なものだったので、みどりが態度に出さないのは彼女の奥床しさだと誤解する。

 

ある日、みどりに呼び出された如月が意気揚々と診察室に向かうと、みどりから外科医を紹介される。その医師から開胸術による検査を勧められたことで、自分は肺癌で死が近いと思い込む。如月は死ぬ前に自作の打ち上げ花火を夢の島で試すため、新谷と実力行使で病院を抜けだそうと試みる。しかし、病院を抜け出すのが困難と判断した新谷は、行き先を屋上に変更し、屋上から火の付いた花火の玉を放り投げる。花火は夜空に大輪の花を咲かせ、如月の花火は大成功。丁度、その頃、みどりの元に如月の検査結果が届き、癌ではなく服薬で完治する結核と判明する。みどりは如月には吉報を知らせ、新谷には喜びのあまり抱きつきキスをする。2人の関係を知らなかった如月は呆然と見守るだけだった。如月が内科病棟に移った数日後、新谷は如月がみどり先生に告白したが振られたことを噂で知る。

新谷の退院の日、新谷と偶然ロビーで再会した如月は不自由だった右手だけで折鶴を作ってみせる。新谷が病院の出口を抜けると、そこには新谷を待つ春子の姿があった。

出典:ウイキペディア

この作品は、私が観た最初の滝田・一色コメディです。

『怪盗ルビー』(1988年公開)を観て、既に、真田さんが、3枚目の役が上手なのを知ってたのと、

フジTV制作で、宣伝も全国規模で上手だったので、

いやがおうにも期待をふくらませて観ました。

期待は外れませんでした。

日本映画でも、

登場人物がこんな変人だらけで、皮肉を交えた面白さを

味わえるコメディがあるんだぁ♥

と、嬉しくなりました。

とにかく、変な人がいっぱい出てくるんだけど、その変さが、

現実離れしてなくて、「こういう人っているかも」と思いながら、

終始、クスクス笑っている、という。

 

薬師丸ひろ子さん(当時27歳)演じる注射が上手にできない研修医。

でも、当時は、そんな医者いるわけないでしょっていうのが、常識だった。

それを、見事にひっくり返して、笑いにしてくれて……

私の勝手な推測ですが、この作品以来、注射をするのが苦手な

お医者さんとか看護婦さんもいるんだ、ってのが、日本全国で認知されたように思います。

そしてベンガルさん(当時38歳)演じる公務員の患者。

入院日数を伸ばして、違法すれすれに、というよりもう、

不法でしょという感じで多額の入院保険を取得して、お金を稼いで、

奥さんと

「このまま入院し続ければ、家のローンも払いきれちゃう ウヒウヒ!」

なんて会話してる。

この例は、後から冷静に考えれば、こんな事してたら、さすがに、ばれて訴えられるだろう、と気がつくのですが、映画の一色ワールドに浸りきって観てる間は気がつかないんですねぇ……

主役や重要な役じゃない人の事は、そんなに真剣に見てないから、というのもあるでしょうね。

 

そして、この作品のきもは、二枚目の色男、真田さん演じる新谷君と

典型的なブ男の大地康雄さん(当時38歳)演じる如月さんの組み合わせです。

 

真田さんの、痛い時は、思いっきり痛がり、治療中に恐怖におびえる

顔の演技は悪く言われる時はケレンミがあり過ぎると、非難されますが、

コメディで、二枚目の若者がはでに痛がったり、表情豊かな綺麗な顔を

見せてくれたら、とても楽しくないですか?

しかも、この新谷君はこの作品中、最初から半分位までは、

足の骨折で痛いわ、

研修医の先生の注射が入らないで痛いわ、

妻をぶ男の如月さんに寝取られて(誤解だけど)、悔しいのに

その如月さんと隣同士のベッドで暮らさないとならないわ、

で、ただでさえ憎い如月さんが、夜、咳でうるさいわ、

おならはひるわ、

で神経消耗しすぎて、胃潰瘍になっちゃう、という不幸のドツボで、

その不幸に苦しむ二枚目の色男を

ちっとも暗くならずに、げらげら笑って観れるのは、ケレンミが

ありすぎると、批判されるようなドタバタ喜劇系の演技だからだと思います。

又、滝田監督もそこを狙って、そのドタバタ喜劇を要求してて、

真田さんが、それに上手に答えているのじゃないかと思います。

そうじゃなかったら、滝田監督はこの先、何本も真田さんと

映画撮らなかったと思います。

そんな表情豊かでなんか賑やかな新谷君とは対照的に、

ブ男の如月さんは、常に落ち着いてて、気持ちをあまり表情に出しません。

でも、大地康雄さんの顔が、ものすごくインパクトがあり、

(多分ブ男ゆえの)哀愁があるので、表情をころころ変えなくても

いいんです。黙ってるだけで如月さんの人生がどんなだったか

想像がついちゃいます。これはこれで、名優だなぁ、と思います。

そんな動と静、明と暗の二人が一緒に画面に収まってるのがとても

バランスよくて楽しいです。面白いです。

 

一色・滝田コメディが、自分にどストライクなのは、

このコンビのコメディは

【お洒落でかっこいい】

ではないからです。

【人間臭くて、リアリティがある】

からです。

この『病院へ行こう』では、夜、如月さんが、おならをするし、

『僕らはみんな生きている』では、中井戸さんが、恥ずかしげもなく

鼻くそをほじります。

それだけでは物足りずに、

『僕らは』では、

真田広之演じる高橋君が、

メモ帳に緻密な生々しい恋人の裸体を描いて、それを見て、

「やりてぇ…」

とつぶやくし、

『お受験』(1999年公開)では、

あの田中裕子さんに、大事な模擬面接の時、おならをさせます。

この作品中の新谷君も、おならこそしませんが、自分が浮気してるのに、奥さんが浮気すると怒るし、自分がもらったお見舞いの数を見せびらかすためにベット前の壁にのしをずらっと貼り付けてるし、かなりの俗物でみっともない男です。

でも、この”落とし”が、人間臭さが、登場人物に二次元の世界を超える生身の人間の匂いを与えていて、生き生きと見せてくれるのです。

 

そして、たとえ、コメディでも、残酷な事実を隠さない、

というのが一色脚本のポリシーです

(と思います。違ってたら、苦情のコメント下さい)

『病院へ行こう』の1シーン、

新谷君が病棟のエレベーターで一緒になった夫婦が、ベッドから

引き払ってきただろう荷物を持ちながら、誰かの葬式について

相談してます。新谷君が、どきっとしてると、エレベーターのドアが開き夫婦は去っていきますが、その夫

が持っていた篭に、数日前、新谷君に、病院の庭でチョコレートをくれた(その時は元気だった)女の子が

着ていたパジャマと抱いていたぬいぐるみが入っていた。

 

女の子の死を、この1シーンだけで描写し、死というリアリティも作品の中で避けて通らない。

 

如月さんがいい年をして、素人童貞だと新谷君に吐露するシーンも、

同情してくださいって空気は、みじんもなく、さらっーと流れるんだけど、

これもよく考えると、ブ男の悲哀が切ない。

 

最近、食わず嫌いで、邦画もドラマもあまり観ないから、

間違ってるかもしれないけど、もう、今の日本映画界の人材に

こんなに人間臭いドラマを作れる人はいないような気がする。

いたら教えて下さい。

 

採点が、3.5と辛いのは、

如月さんが、肺がんかもしれないと、医師達が疑って、組織を調べようと、

開胸手術をセッティングするが、

研修医のみどりはそれに反対して、

痰の培養から病気を特定する事にこだわる。

開胸手術したって、がんじゃない事が分かれば、めでたしめでたし

になるはずだし、そっちの方が早く済むので、如月さんの不安も早く

取り除いてあげられる。

なのに、医者の卵がそれに反対するのはおかしいと思った。

 

検査とはいえ開胸させると体に負担が大きいから、如月さんの事を

おもんばかってなのか、だとしたら、あまりに優しすぎイイ人すぎで、医者としてのプロ意識が全然ない感じがして残念だから。