映画についてのよけいな事 

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適材適所の大切さ 『ザ・コンサルタント』

 


『ザ・コンサルタント』予告編

 

ネタばれあり

予告では隠してますが、

この作品はただのカッコイイ

殺し屋の話ではありません。

その理由をばらして感想書いてます。

 

 

 

 

 

あらすじ

高機能自閉症のクリスチャン・ウルフ

ベン・アフレック)はその天才的数学能力

を生かし、会計士として自立し、

社会で居場所を確保して生きているが、

裏稼業では犯罪者達の汚れた金の資金洗浄経理

を請け負い、莫大な報酬を得ている。

危ない連中と仕事するため、身を守る為に射撃の腕

や格闘技の腕も一流である。

財務省の分析官、メリーベス・メディナは裏社会で

”会計士”と呼ばれる謎の男(クリスチャン)の

素性を突き止めるよう、財務局長のキングに命じられる。

一方、普通の会計士として雇われた会社で、経理の不正の

原因を一晩で発見したクリスチャンは命を狙われる大事件

に巻き込まれ、彼を抹殺しようとする組織との死闘が始まる。

 

監督:ギャヴィン・オコナー

脚本:ビル・ドウビューク    

 

 

 

 感想

   ☆良かったところ

1.ベン・アフレック(45歳)がやーっと適材適所に使われた事。

今まで、無表情で、大味で、大根だよね、この人。とばかにしちゃってました、ごめんなさい。それが、自分の個性にあう役(自閉症で表情が乏しい)をやるとこんなに魅力的になっちゃうんだ、とびっくり!

サイボーグのような顔で、愛想笑いもしない、冗談も言わない、分からない。その彼が、自分と似た人や自分を分かってくれる人と触れ合った時に見せる嬉しそうな表情に、おばさんは撃ち抜かれてしまいました。

かばってあげたい、あーだこーだと世話してあげたい(そういう事されるの、嫌だろうけど)……そんな魅力的な主人公でした。

 

2.応援したくなる不器用な登場人物達。

主人公のクリスチャンをはじめ、クリスチャンと共に命を狙われる経理課の女性社員、ディナ・カミングス(どこか不器用で生きるのに苦労してる感じ)、暗い過去を隠し持つ財務省分析官のメリーベス・メディナ、エリートコースは外れたが、父親としての生き方は正しかった(と本人が言っている)財務局のキングなどなど、他にもクリスチャンの秘書の女性とか、登場人物に向ける目線の優しさ……アクション映画なのに。

主人公や仲間を応援したくなる気持ち。『GotG』に似ている。

ポロックの絵が重要なアイテムとして出てくるのも『GotG』のコアなファンには嬉しい) 

     

3.既成概念をひっくり返した父親の愛

この作品には主人公の他にも色々なタイプの自閉症の人がでてきますが、自閉症の特性を理解して下さい、というような道徳的意図はないと思います。むしろ逆で、クリスチャンの父親は自閉症児の特性に配慮した特別扱いを拒絶します。なぜならいったん世間に出れば、そういう配慮をしてくれる人ばかりではなく、むしろ配慮してくれない人の方が多いからです。

社会で自立して普通に生きていく為に、父は、クリスチャン自身が、そのやっかいな特性と戦い、彼を異質、怪物と恐れる世間の人々とも戦い、倒していく生き方を教えます。

この父親の逆転的発想はとても衝撃的でした。

私は保育士免許を取ったり、学童保育で働くなど、児童福祉の現場に何年かいたのですが、自閉症児をはじめ、発達障害児に対してのガイドラインは、"人と違うので、特別扱いをしてあげないといけない(悪意のある言い方をすると)、彼らが、安心して過ごせるように特別に配慮しないといけない" というものでした。今もそうだと思います。

私自身もその指導方法を全く疑問に思いませんでした。だって、発達障害の子どもに、いつもみんなと同じように行動しなさい、なんて、死ぬほど嫌で我慢できない事を強いるなんて、ひどい、かわいそうです、単純に考えたら。でも、本人の一生の事まで考えたら、福祉的ケアに頼らず、社会で自立して生きていく為には特別扱いのない環境で仕事し、暮らしていけるように訓練してあげる方が正しいのかもしれません。

初めは、この父親は、自分の子どもが自閉症だと認めたくなくて、普通になるようスパルタ訓練してるのかと思いましたが、スパルタ訓練したのは愛情からだったと分かります。クリスチャンが、大きな刺激を受け、錯乱して暴力ざたをおこしてしまい、警官から銃を向けられた時、父親が盾になり撃たれます。クリスチャンを守ったのです。

 

 

  ☆残念だったところ

クリスチャンは逃避行中に、好意を持ってるディナが気に入るようなホテルをとったり、別れる時に、ディナを褒める言葉を残していったり、人を思いやれる機能は、非自閉症者とほぼ変わらない気がする。そこはやっぱ作り物の世界だな…と。

クリスチャンのディナに対する愛情表現がもっと不器用だったら、リアリティが増してもっと深みのある作品になったと思う。

 

現実には自閉症者がクリスチャンのように一人で自活できる程度のコミニュケーション能力を取得できるかどうか、素人の私には分からない。でも、能力をそれに合った場所で生かせれば、クリスチャンのように生きられるかもしれない、そうならいいな、と明るい気持ちにしてくれる映画でした。

自閉症=人と違う=劣っている ではない」

というメッセージをこんなに鮮やかに表現したスタッフ(特に脚本)、頭がさがります

 

クリスチャンと係わるハーバー神経科の所長(自閉症児の生活施設のような所)は言います。

「彼らは高い能力があるのに伝えるすべを知らないだけかも。あるいは我々が聞く力を持たないだけかも」

ベン・アフレックの無表情という個性を、俳優として"劣っている"と決めつけてた自分も、自閉症を正しくとらえてない世間と同じだったのかもしれない、と思いました。